2009/8/8 更新
 
不安定という安定

1 はじめに

  この度、「飛行と安全」に投稿する機会を頂いたので、普段感じていることを述べてみたいと思います。
 少し変わった視点から安全というものを見つめてみましたので、少々独善的な面はあると思いますがご容赦下さい。

 

2 不安定という安定

  意外な事と思うでしょうが、人間にとって不安定こそが一番安定している状態です。

 同じ状態がずっと続くというのは、良いことのように見えて実は一番危険な状態なのです。水は動きのない状態が続けば濁りはじめ、腐り始めますが、川のように流れがあれば、水は澄んだ状態を維持し、濁ることはありません。

 人間も同じことで、動きがないと、どんどん腐っていくのです。何もしないでじっとしているほうが安定しているように思えますが、精神的に不安定になり、実は一番危険な状態になります。

 様々なことにチャレンジし、自ら変化を作り出し適度な気分転換をした方が精神的には安定します。つまり、適度な「変化」を作りだし、「不安定」になるおかげで「安定」するわけです。

 不安定とは「安定しないこと」「状況が変わってしまうこと」と定義され良くないことのように思われますが、実は不安定の中に安定する秘訣があるのです。

 

3 安定を好む組織

 官僚化と呼ばれるものの中の一つに、「変化を好まない」ということがあります。何か新しいものをやろうとすると、ことごとく反対します。
 
 過去のやり方を変えることに抵抗を感じ、今までやってきたやり方を変えようとしません。変化のないことが安定していることであると錯覚しているのでしょうが、安定しているのではなく安心を求めているだけです。
 
 お役所的な組織は、安定を好み進化しません。間違った安定は組織を駄目にするのです。

 

4 安定を目指すと逆に不安定になる  

 事故のない状態が長く続く、これは非常によい状態なのですが、それが当たり前に感じてしまうとちょっと状況は変わってきます。

 もう事故は起こらない、このままで大丈夫、今の状態を維持すれば問題ない、将来も事故は起きないだろう。。。。同じ状況の繰り返し、同じことの繰り返し。安定している状態に安心していませんか?
 
 基本手順の遵守を強調するあまり、単調な手順に陥る危険を見逃していませんか?基本手順は、ただ無意識に同じ手順を繰り返し実施していても意味がありません。
 
 同じ手順の繰り返し。それがマンネリ化を招き、意識の低下からミスを引き起こすように、変化のない安全施策は逆に不安全になりかねません。

 

5 バランスをとる 

 ぐらぐら揺れているにも関わらず、何故かむしろそれが安定していると感じてしまう不思議な状態ってありませんか?冷戦時代の力の均衡の話ではありません。

 パイロットの皆さんであればお気づきのことと思いますが、編隊飛行の細かいコントロールのように、常に小刻みに舵を動かすことによって安定を保つことが出来る、すなわち、短い周期で修正動作を繰り返せば安定するのです。
 
 不安定な航空機でも優秀なフラコン(フライトコントロールシステム)を積めば、コンピューターが常に細かく舵面を動かし、見かけ上の安定を保つことが可能なのです。しかし不安定な操舵の連続があって初めて安定が生まれるのであって、何もしない(安定した?)フラコンでは決して安定な状態は作れません。
 
 安定した状態から不安定な状態に乱されると、自然に元に戻ろうとします。これを利用して、わざと揺さぶりをかけ不安定にすることもいいかもしれません。
 
 波一つ無い湖面に小石を投げ入れるのです。小さな波の広がりが一つ一つの安全活動です。元に戻る力が強い組織ほど安定している組織といえるでしょう。不安定を解消しようとする努力の積み重ね、絶え間ない活動が重要です。しかし、あまり大きな岩を投げ込むと大変なことになるので、その辺は気をつけましょう。

6 おわりに 

「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず・・・」組織は常に新陳代謝を繰り返しています。
 
 時が変わっても、人が変わっても、川の流れのように常に小さな擾乱を与えつつ「不安定な安定」を保つことが安全を維持するために重要ではないでしょうか。